ケーススタディ: ハイジャックジャーナルへの投稿を避ける

Case study Avoiding submission to a hijacked journal

多くの分野でジャーナルの数が増え続けているため、自分の研究に適したジャーナルを見極めるのが難しくなっています。この問題をさらに深刻にしているのが、信頼できないジャーナルの増加です。

投稿先を、すでに知っている、または指導者や同僚が保証してくれる、安全で評判の良いジャーナルのみに限定するとしましょう。そうすれば、投稿・出版プロセスは間違いなくシンプルになります。しかし、それでも油断は禁物です。というのも、正当なジャーナルのアイデンティティを模倣したジャーナルに騙されて、そこに投稿してしまう可能性があるからです。

ハイジャックジャーナル(hijacked journal)」と呼ばれるこのようなジャーナルは、本物のジャーナルのウェブサイトを模倣し、疑うことを知らない著者を誘い、論文掲載料(APC)を支払わせます。ハイジャックジャーナルの成功は、彼らが模倣したジャーナルに対する、著者の信頼にかかっていま。また、サイトも模倣されているため、注意しないと見分けるのは困難です。

エディテージの出版サポートチームは最近、ある研究者の論文の出版をサポートした際に、ハイジャックジャーナルに遭遇しました。このケーススタディをもとに、警戒を怠らず、このような詐欺の餌食にならないために何ができるかを紹介します。

ケーススタディ

誤ったウェブサイトにアクセスする

このケースの研究者は、ポーランドのKozminski大学が所有するEmerald Publishingから出版されているCentral European Management Journalに論文を投稿したいと考えていました。当時、このジャーナルの名前をGoogleで検索すると、以下のようなURLが表示され、結果ページの上位にランクされていました。
http://journals.kozminski.cem-j.org/index.php/pl_cemj (現在は廃止)。

残念ながら、これはこのジャーナルの実際のウェブサイトではありませんでした。その事実は後に明らかになります。

ジャーナルからまったく連絡がない

論文は上記のウェブサイトから投稿されました。しかし、著者には何の連絡もありませんでした。その後1カ月半以上にわたり、著者はジャーナルに連絡して最新情報を求めましたが、何の反応もありませんでした。

最終的に、徹底したオンライン検索によって、信頼できるジャーナルの編集チームのEメールアドレスを見つけ、著者は彼らにメールを送りました。ジャーナルは著者に対し、論文は受け取っていないと知らせました。

投稿先の変更

本物のジャーナルからの回答で、著者が論文を投稿したジャーナルが偽物であることが確認されました。著者は偽ジャーナルに最後にもう一度メールをし、3日以内に返事がなければ投稿を取り下げたものとみなすと通知しました。

それでも返事はなかったため、著者は本物のジャーナルに論文を投稿しました。その論文は最終的にアクセプトされ、そこで出版されました。

このケースで著者が幸運だったのは、乗っ取られたジャーナルにAPCを支払っておらず、ジャーナルからの前払い請求や、他のジャーナルに投稿するための撤回料の請求が無かったことです。ジャーナルから何の連絡もなかったことが、最終的にそのジャーナルが偽物であることを発見するのに役立ちました。

しかし、もう一方の類似例では、著者はそれほど幸運ではありませんでした

このケースから学べること

オンライン検索結果に惑わされない

ハイジャックジャーナルは、研究者が模倣したジャーナル名をオンライン検索した際に自社のウェブサイトを上位に表示させる手口をとることがよくあります。今回のケースでも、著者が最初に誤ったサイトに誘導されたのはこの手口でした。

できれば、ウェブ検索でジャーナルのホームページを探すのではなく、Scopus、Directory of Open Access Journals(DOAJ)、Web of Scienceのような信頼できるジャーナルデータベースやインデックスを利用することをおすすめします。そうすることで、このようなミスを減らすことができます。

ハイジャックジャーナルの一部は、これらのインデックスにも侵入していることが知られていますが、影響を受けたインデックスは是正措置を取り、それらを削除しています。

信頼性の欠如を示唆するサインに気をつける

どのような方法でジャーナルのウェブサイトを見つけたとしても、そのウェブサイトを注意深くチェックしてください。単純なことでも、そのサイトが信頼できない可能性があることを示すヒントになる場合があります。

例えば今回のケースで、ハイジャックジャーナルのURL(http://journals.kozminski.cem-j.org/index.php/pl_cemj )は、一見すると本物のように見えますが、httpsではなくhttpで始まっていることに気づくでしょう。

これは危険信号です。なぜなら、機密情報(この場合、研究論文や個人情報、所属機関の情報)を共有・アップロードするサイトは、安全である必要があり、httpsで始まる必要があるからです。信頼できるジャーナルは、オンラインセキュリティの維持と、受け取った論文の秘密保持に配慮しています。

また、ウェブサイト上の情報に不正の兆候がないかも注意深くチェックしましょう。Think.Check.Submitが提供するチェックリストやその他のリソースを利用してください。これらは、信頼できる出版社を見極めるのに役立ちます。

オンライン検索で出てきたジャーナルの他のウェブサイトを調べる

ジャーナル名のオンライン検索をメインにする場合でも、出てきた他のウェブサイトをチェックし、万が一別の場所に誘導されることがないようにしましょう。本物のジャーナルのURLは、検索結果の最初のページに掲載されている可能性が高くなります。

Central European Management Journalの場合、本物のURLが検索結果に表示されます。それをクリックすると、ホームページでハイジャックジャーナルについて著者に明確に警告していることがわかります(下のスクリーンショットを参照)。

ハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルの公表されているリストを参照する

Retraction Watch Hijacked Journals Checkerは、こうしたジャーナルを避けるのに役立つ重要なリソースです。すべてのハイジャックされたタイトルをリストアップしているわけではありませんが、定期的に更新されています。実際、このケーススタディで紹介した偽ジャーナルも、このリストに掲載されています(以下のスクリーンショットを参照)。

注: このリストに記載されているURLはhttpsで始まりますが、これはジャーナルが以降に更新したためと考えられます。

現在、いくつかの機関が、ハイジャックジャーナルを含め、ハゲタカジャーナルや疑わしい性質を持つジャーナルのリストを定期的に更新して提供しています。一部は有料ですが、無料で入手できるものもあります。これらのリストにアクセスできるかどうか調べてみましょう。

ジャーナルのオープンアクセスモデルを複数のデータベースと照合する

正規のジャーナルのウェブサイトに掲載されている注意書きをすべて読めば、そのジャーナルが著者に料金を請求していないことが明記されていることがわかります。

ハイジャックジャーナルを含むハゲタカジャーナルは、ゴールド・オープンアクセス出版モデル、つまり著者がAPCを支払うモデルを悪用しています。

ゴールド・オープンアクセス・ジャーナルはAPCを請求しますが、プラチナ/ダイヤモンド・オープンアクセス・ジャーナルは請求しません。

したがって、ジャーナルを選択する際に行うべきチェックのひとつは、そのジャーナルがどの出版モデルを採用しているかを確認することです。そのためには、そのジャーナルがインデックスされているデータベースをチェックし、そのジャーナルに関する情報を読む必要があります。

例えば、DOAJでCentral European Management Journalを調べると、出版手数料がかからないことが明記されています(下のスクリーンショットを参照)。

最終的な考え

あなたも多くの研究者と同じように、特定のカテゴリのジャーナルに、決まった時期までに論文を掲載しなければならないというプレッシャーがあるかもしれません。しかし、ジャーナルを選び、自分の研究を投稿する際には、細心の注意を払う必要があります。今回のケーススタディが示すいくつかのチェックをして、時間、お金、ストレス、そしてあなたの評判への潜在的なダメージを軽減させてください。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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