― 研究者の方針への理解拡大と、負担軽減のための支援が急務 ―
研究者向けソリューションを提供するエディテージ(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)は、「即時オープンアクセス義務化に対する研究者意識調査」の結果を発表しました。
本調査は、2025年度公募分から、競争的研究費による研究論文の即時オープンアクセス(以下OA)義務化が閣議決定したことを受け、研究者支援サービスブランド、エディテージの利用者を中心に、論文出版経験がある研究者1,012名を対象に実施されました。
調査の結果、即時OA義務化の方針を研究者の71%が知らないことが明らかになりました。研究者はOA化に関心が強く、研究を社会に還元する理念には賛同する声が多い一方で、方針を支持する人は35%、積極的にOA化を推進したいと考えている人も51%に留まりました。研究予算が限られる中、高騰する論文投稿費用への不安が現れた結果と言えます。
また、今回の即時OA義務化方針では、論文の著者最終稿を機関リポジトリに公開するグリーンOAが推奨されていますが、所属する大学等に機関リポジトリが「ない」と答えた人が30%、「わからない」と答えた人が28%で、合計すると全体の58%と高いことがわかりました。方針の実施に向けて、研究者への情報発信と理解の拡大、負担軽減に向けた支援が重要であることが明らかになりました。
調査結果を以下にまとめましたのでお知らせいたします。
調査結果サマリ
- 即時OA義務化について、71%の研究者が「知らなかった」と回答。当事者である大多数の研究者に情報が届いていなかった。
- 即時OA義務化を支持する研究者は、35%に留まった。85%の研究者が関心を示す一方、支持しない理由として、投稿費用の負担に対する懸念が多く挙がった。
- 方針を受けて、半数の51%が積極的にOA化を進めたいと回答。既に61%は年1報はOA誌に投稿している中、49%が否定的または態度を保留しており、意見が分かれた。
- 多くの研究者が、海外OA誌への投稿費用の負担が上がることに懸念を示した。昨今の投稿費用の高騰化が研究予算に及ぼす影響への強い不安が浮き彫りとなった。
- 研究者の58%が、所属大学等の機関リポジトリの存在を認識していない。特に全国立大学に存在するにも関わらず、所属者の41%が「ない」「わからない」と回答した。また、全体の66%が機関リポジトリに論文を登録した経験がなかった。
- 大学のOA化支援に満足している人は23%に留まった。満足の主な理由は投稿費用補助の充実(82.9%)、不満足の主な理由もまた投稿費用補助の不足(65%)であったことから、研究者は特に投稿費用に関する支援を強く求めていることがわかった。
調査結果の総括と展望
( カクタス・コミュニケーションズ日本法人代表取締役 湯浅誠 )
研究者の大半に即時OA義務化の方針が知られていない、という驚きの結果となりました。公費で行われた研究を社会に還元するため、欧州・米国ではすでに論文の即時OA義務化が進んでいます。日本はその世界の動きに遅れをとりながらも、昨年5月のG7広島サミットと仙台科学技術大臣会合を踏まえ、ようやく閣議決定に至りました。しかし研究現場にこの方針が浸透するまでには、様々なハードルがありそうです。
多くの研究者が、論文を誰もが読めるオープンアクセスにすることの社会的意義に賛同しています。その反面、今回のアンケートを通じて、義務化で研究予算が逼迫することへの切実な不安が浮き彫りとなりました。自由回答では、研究費の獲得がますます競争的になり、円安が解消されない中、海外OAジャーナルへの論文投稿費用に1本数十万円かかる矛盾への強い懸念や怒りの声が寄せられました。
一方で、今回の政府の方針では、機関リポジトリ(論文などの知的生産物を保存し無償公開するシステム)等に論文の著者最終稿を登録するグリーンOAが推奨されています。この方法であれば費用負担なく即時OA化できますが、我々の調査からは、実に半数以上の研究者が機関リポジトリの存在を知らず、利用もしていない現実が明らかになりました。逆に言えば、機関リポジトリ利用の普及にはまだまだポテンシャルがあり、日本の大学が大きな予算をかけずに即時OA化を実現する近道と言えるのではないでしょうか。
この方針の普及には研究者の理解と協力が欠かせません。同時に、研究者の経済的・時間的・心理的負担をいかに減らすかが大学・研究機関の大きな課題です。すでに多くの大学の図書館や研究推進部が、投稿費用や機関リポジトリ登録の支援を実施しており、同時に出版社との転換契約(学術誌の購読費用を投稿費用に転換させることで無償化する契約)を進めています。こうした支援に加え、今後は機関リポジトリ登録のオートメーション化や、費用負担の少ない国産OA誌の整備といった、より大胆な施策が必要になるのではないでしょうか。論文や研究データの無償公開は社会還元の第一歩ですが、将来的には、真の意味で市民の利益になるための情報技術の開発も不可欠でしょう。
調査概要
- 調査名:OA義務化に対する研究者意識調査
- 調査期間:2024年8月27日〜9月6日
- 対象:エディテージ(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)の利用者を中心とした、論文出版経験がある研究者
- 回答数:1,012名
- 方法:オンラインアンケートフォーム自主回答形式
調査結果全文
論文の即時OA義務化の方針についての自由回答の一部を抜粋
[ 意義には賛同するが、支援を期待する意見 ] ・OAが望ましいと考えるが、現状ではコストがかかり過ぎる。研究者や所属機関に義務化を求めるのではなく、出版社側に低額のOA推進を働きかけるべき。 ・論文OAには基本的に賛成である一方、高額のAPCを税金で負担することに疑問を感じる。日本国内の研究者が論文を登録できるリポジトリを作成し、それに基づいて業績評価が行われるべきである。WoSに掲載された論文数やTop10%論文、ジャーナルインパクトファクターに基づく評価では,税金の負担が大きくなりすぎてしまい、いち納税者として疑問を覚える。 [ OA義務化自体を疑問視する声 ] ・APCにかかる費用は多くの場合、日本の税金で、この税金が日本国以外の国にただ流れている現状について、政府はきちんと説明しなければ、納得いく形でOA誌に投稿を考えられない。 ・APC負担による研究の停滞が懸念されること、またJ-Stageなどに登録されている費用の安い国内紙への投稿が中心になり、IFの低いものが増加する可能性があるため、ある程度の自由度は残してほしい。 ・無駄の一言に尽きる。政府の言う一般国民への開示は科学分野で一般的な英語論文ではなされない。日本語のプレスリリースの義務付けのほうが余程一般国民への周知がなされるのではないか。 |
湯浅 誠
カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役
リサーチソリューションズ事業 Chief Growth Officer (CGO)
プロフィール
1978年千葉県生まれ。大学を卒業後に渡英後、2003年よりカクタス・コミュニケーションズのインド・ムンバイ本社に就業。日本法人の設立に携わり、現在カクタス・コミュニケーションズ株式会社の代表取締役および、カクタス・グループのリサーチソリューションズ事業CGOを務める。20年以上に渡り日本のアカデミアにおいて、研究者、大学・研究機関、学協会の国際化と研究支援に携わり、現在はカクタス・グループ全体において日本・中国・韓国を中心にグローバル全体のマーケティングと成長戦略も統括している。
エディテージについて (https://www.editage.jp/)
エディテージは、科学コミュニケーションズ&テクノロジー企業であるカクタス・コミュニケーションズのブランドです。2002年に創業し、英文校正、翻訳、文字起こし、出版支援サービスやAIプロダクトを通じて、2,000を超える分野において、300万人以上の研究者が学術誌に研究論文を発表する支援を行い、出版された論文はおよそ200万件に及びます。
カクタス・コミュニケーションズ株式会社について(https://cactusglobal.com/jp/)
カクタス・コミュニケーションズは、2002年に設立された科学コミュニケーションとテクノロジーの会社です。研究への資金調達、論文の出版、科学コミュニケーション、発見がより良くなるようなAI製品とソリューションを専門としています。同社の主力ブランドであるエディテージは、専門家によるエキスパートサービスと、Mind the Graph、Paperpal、R Discoveryなどの最先端のAI製品を含む、包括的な研究者向けソリューションを提供しています。また、カクタスはCactus Life Sciencesブランドの下で医療コミュニケーションも手掛けています。現在は東京、プリンストン、ロンドン、オーフス、シンガポール、北京、上海、ソウル、ムンバイにオフィスを構え、3,000人以上の専門家を擁するグローバル企業です。また、職場におけるベストプラクティスのパイオニアとして、ここ数年、常に「働きがいのある会社」にランクされています。
- カクタス・コミュニケーションズ: https://cactusglobal.com/jp/
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