「積極的な計画、継続的な学習、コラボレーションのバランスを取ることで、私たちは時代の先を行くことができ、関係者全員に利益をもたらす形で査読を進化させることができます。」 Maryam Sayab
Peer Review Week 2024の共同委員長でもあるMaryam Sayab氏にインタビューしました。
Maryam Sayab氏は、アジア全域で学術出版の推進に取り組む主要組織であるアジア科学編集者協議会(Asian Council of Science Editors)のコミュニケーション・ディレクターを務めています。また、Center for Open ScienceのアンバサダーやPeer Review Week委員会の共同議長などの重要な役割も担っています。学術コミュニケーションと出版の分野で9年の経験を持つ彼女は、科学コミュニケーション、戦略立案、政策開発、編集業務、オンデマンド・トレーニング、プロジェクト管理などの専門知識を持っています。科学研究の質とアクセシビリティの向上に対する彼女の取り組みは、この地域の学術出版の未来を形成し続けています。
そんなMaryam Sayab氏に、変化する査読の状況におけるテクノロジーの役割についての考えをうかがいました。彼女は、査読のワークフローにテクノロジーを統合することの長所と短所について、素晴らしい洞察を披露してくれました。
革新的なテクノロジーとそれが査読で果たす役割についての彼女の洞察は以下をご覧ください。
査読における最も有望なテクノロジーの進歩は何ですか? また、それが将来をどう形作ると思いますか?
査読において私が最も興奮している技術的進歩は、AI主導のツールです。これらのツールは、査読プロセスを変革しつつあります。例えば、剽窃や画像加工の可能性があるケースを素早く特定することができます。将来的には、これらのツールは査読プロセスをスピードアップし、査読全体の質を高めるために不可欠なものになると思います。
査読におけるAI主導のツールの台頭により、査読プロセスの誠実さはどのように確保されますか?
誠実さの確保のためには、AIが時間のかかる定型的な作業を処理するしっかりとした確認プロセスが必要です。そうすることで、人間は査読のより深い側面に集中することができるようになります。AIは考えられる問題点を示唆することはできますが、最終的な判断は常に人間が下すべきです。査読者は状況を評価し、情報に基づいた判断ができます。これは、人間である査読者のかけがえのない洞察力を維持しつつ、AIの効率性を活用するハイブリッドなアプローチです。これにより、ますますデジタル化が進む世界において、高い水準の査読を維持することができると信じています。
査読における人間の判断とテクノロジー支援のバランスをとるために、どのような対策を講じるべきでしょうか?
査読において、人間の判断とテクノロジー支援のバランスをとるための現実的なアプローチは以下の通りです。
- 剽窃のチェック、画像加工の警告、潜在的な利益相反の指摘など、初期の定型的な作業はAIに任せます。
- 研究の重要性や方法論の質の評価など、より深く主観的な評価は人間の査読者に任せます。
AIと人間の査読者の洞察力と専門知識を組み合わせることで、プロセスを効率化し、最終的な判断が徹底的で思慮深いものになることが保証できます。このハイブリッドなアプローチは、査読の質を高めるだけでなく、編集者と査読者が本当に重要なところにエネルギーを集中することを可能にします。
査読に新しいテクノロジーを導入する際の主な課題や障壁は何でしょうか?
- 査読に新しいテクノロジーを導入する際の最大の課題のひとつは、変化に対する躊躇と抵抗です。
- 新しいテクノロジーの導入には時間と費用がかかるため、査読者が安心して利用できるよう、機関が継続的にサポートする必要があります。
- AIツールが信頼できるものなのか、査読の質と誠実さを損なわないために本当に信頼できるものなのかという懸念があります。
こうした懸念に対処するには、これらのテクノロジーの有効性を実証するのに加え、そのテクノロジーが人間の判断に取って代わるものではなく、補完するために使われるようにする必要があります。
このような技術的変化に対応するために、研究機関や出版社はどのように査読者や編集者をサポートすればよいのでしょうか?
このデジタル変革の中で生き残るためには、編集者や査読者へのサポートが不可欠です。機関や出版社は、以下のような支援を行うことができます。
- トレーニングプログラムの提供
- 継続的な技術サポートの提供
- 新しいツールの採用の奨励
- 技術の開発やテストへの査読者の参加
査読にテクノロジーを取り入れることに懐疑的であったり抵抗感を抱く人に対して、学術コミュニティはどのように対処すればいいのでしょうか?
査読にテクノロジーを統合することへの懐疑的な見方や抵抗に対処するには、学術コミュニティによる思慮深く包括的なアプローチが必要です。これには以下が含まれます。
- 効率性、透明性、公平性の向上など、テクノロジーの利点について査読者を教育します。
- 懸念事項を認識し、テクノロジーが人間の判断に取って代わるものではなく、補完するものであることを関係者に再確認します。
- よりシンプルなツールから段階的に導入し、徐々に高度なシステムを導入することで、移行を容易にします。
- 新しいツールの使用に自信を持てるよう、トレーニングとサポートを提供します。
- テクノロジーの使用方法について透明性を維持し、信頼を築きます。
- 継続的なフィードバックを通じてコミュニティと関わり、懸念に対応する姿勢を示します。
今後10年間で、査読に最も大きな影響を与えると思われるテクノロジーのトレンドは何だと思いますか?
今後10年間で、いくつかの技術開発が査読の状況に大きな影響を及ぼすと考えています。
- 機械学習と人工知能(AI)の導入:AIは人間の判断に取って代わることはできませんが、プロセスをスピードアップし、改善することは間違いありません。
- ブロックチェーン技術の応用:査読プロセス全体の永続的な記録を作成することで、査読の透明性と説明責任を高める可能性があります。
- 共同プラットフォームの増加:これらのアプローチは、査読プロセスに幅広い意見を関与させることで透明性を高め、研究のより多様で包括的な評価につながります。
- データ分析の進歩:査読の実績を追跡・分析する方法が改善されようとしています。これにより、ジャーナルや出版社がより良い結果を得るためにプロセスを改善するのに役立つ可能性があります。
こうした流れが相まって、より効率的で透明性が高く、公正な査読システムが構築されるでしょう。
このような将来のトレンドがもたらす可能性のある課題や機会に対して、私たちはどのように備えることができますか?
査読テクノロジーの未来に備えるために必要なのは、柔軟でオープンな考え方です。学術コミュニティは、潜在的な欠点を認識しながら、新しいツールやテクノロジーを採用することが不可欠です。そのためには、研究者、編集者、査読者にその利点を教えるだけでなく、ブロックチェーンや人工知能のような先進技術を活用しながら、誰もが安心して自信を持って利用できるようにする必要があります。定期的なトレーニングと成長の機会を持つことは、こうした変化を効果的に乗り切る上で大いに役立ちます。
もちろん、新しいテクノロジーにはリスクがつきものです。例えば、AIには偏見の懸念が、ブロックチェーンにはプライバシーの懸念が生じる可能性があります。このような問題に正面から取り組むためには、正確な規範と道徳基準が必要です。それはIT企業や出版社にとって極めて重要なことです。
その一方で、次のようなエキサイティングなチャンスもあります。
- 透明性、効率性、包括性
- より幅広い視点
- より公平で徹底した評価
- データ分析による、査読プロセスの継続的な改善
積極的な計画、継続的な学習、コラボレーションのバランスをとることで、私たちは常に時代を先取りし、関係者全員に利益をもたらす形で査読を進化させることができます。
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。