学術論文執筆とAI:研究者がすべきこと、すべきでないこと

Academic Writing and AI Dos and Don’ts for Researchers

世界中の研究者がChatGPTやその他のAIツールを使っているようです。ほぼ毎月のように、学術論文執筆、特に研究論文執筆にAIを使用することに関する新たな議論が行われており、研究者、著者、ジャーナル編集者、出版社、研究団体のリーダー、その他の関係者がそれぞれの意見を述べています。

なお、この記事では正確を期すため、「AI」を使用する場合は生成AI、つまり人間が生成できるものを忠実に模倣した音声、映像、またはテキスト出力を作成できるツールを指します。

英国を拠点とする研究者を対象に実施したWatermeyerらによる2023年の調査では、回答者の70%以上が「AIツールが仕事のやり方を変えている」と感じており、80%以上が「将来的にAIをさらに活用する」と予想しています。2023年12月、フロリダ州立大学のDavid Maslach准教授は、Harvard Business Publishing のブログ記事で、生成AIが研究を「強化」できると主張しましたが、科学者に対してDavid Maslach准教授は「AIは特定のタスクでは優れているが、教育者のやる気を引き出す情熱と個性を再現することはできない。AIができることは、私たちの才能を刺激することだ」と警告しました。2024年1月、『Nature』誌は、「生成AIは研究者の仕事を多くするのか、少なくするのか?」と問う記事を掲載しました。

さらに最近では、オックスフォード大学出版局が2024年5月に実施した調査で、調査対象となった2,000人の研究者の3分の2以上がAIを使うことのメリットを実感している一方で、約90%がAIの使用に関する指針を求めていることがわかりました。

この記事では、学術論文執筆に特化したAIの使い方と、研究論文の作成にLLMを責任を持って活用する方法について見ていきます。以下は、すべての研究者に守っていただきたい「すべきこと」と「すべきでないこと」です。

学術論文執筆にAIを使用してよいか確認する

多くのジャーナルや大学では、どのようなAI生成コンテンツが許容されるかについて方針を示しています。例えば、ノースカロライナ大学チャペルヒル校は学生に「教員が生成AIツールの使用を許可するのは、これらのツールが学生の思考や執筆を支援するものと考えているからであって、AIに代わりに考えさせたり書かせたりするためではありません」と警告しています。同大学は、主にブレーンストーミング、アウトラインの作成、長い文章の要約、言葉の洗練に生成AIを使用することを勧めています。『Science』誌などのジャーナルは、AIの使用とその開示について詳細なガイドラインを設けており、「AIが不適切に使用された場合、編集者は拒否する可能性がある」と著者に警告しています。

研究論文などで生成AIを使用する前に、実際に使用が許可されているかどうかを確認してください。

学術論文執筆に適したAIツールを選ぶ

ChatGPTは学術論文執筆には不向きであることが繰り返し示されてきました。GPT-3が発表されてから6カ月後の2023年7月には、『Nature』誌のポッドキャストで、このツールは研究者がわずか1時間で論文執筆するのに役立つ可能性があるものの、その品質には明らかに問題があると語っています。Kacenaら(2024)は、ChatGPT 4.0の作成する論文に含まれる引用文献の最大70%が偽物であることを発見しました。

これは研究者にとって何を意味するのでしょうか? AIを使って学術論文の質を向上させたいのであれば、論文執筆に適したツールを選ぶ必要があります。例えば、Paperpalは、インターネット上のものすべてではなく、何百万もの学術論文に基づいてトレーニングされており、ユーザーには、論文がジャーナルに掲載可能かどうかを評価するための30以上の言語的・技術的チェックの要約レポートを無料で提供しています。

ChatGPTのような主流のLLMは、ジャーナルや大学が期待する学術論文執筆の基準を必ずしも満たすとは限りません。AIツールは慎重に選びましょう。

AIの出力を注意深く観察する

どんなAIツールも、その出力の正確さと完全性に関して、人間の執筆者のように責任を負うことはできません。責任ある科学者として、あなたは研究論文で使用するAI生成テキストを確認し、同意できないAI生成コンテンツを修正する必要があります。

AIは素晴らしいものですが、批判的思考スキルや専門分野の知識に取って代わることはできません。学術論文執筆のためのAIツールは、著者としてではなく、便利なアシスタントとして扱いましょう。

AIが自分よりも学術論文執筆が上手いと思いこまない

AIを搭載したツールは、英語を母国語としない人や、若手研究者が学術論文にふさわしいトーンやスタイルを身につけようとする場合に最適です。あるいは、時間に追われていて、ジャーナル編集者へのメールのような日常的な学術コミュニケーションに支援が必要な場合にも役立ちます。しかし、AIはその分野に関する知識や批判的思考スキルの代わりにはなりません。例えば、多くのAIには「knowledge cutoff date」(最後にトレーニングデータを受け取った日)があります。つまり、その日以降に発表された研究論文を含む、いかなる出来事もAIは認識していないのです。

AIが生成した画像を学術論文に使わない

『Frontiers in Cell Development and Biology』誌が、おかしなネズミの画像を掲載した論文で嘲笑されたことをご存じでしょうか。主要メディアでも取り上げられましたが、悪名高いネズミの画像以外にも、科学者が同じように馬鹿げていると感じたAI生成画像が掲載されていました。科学的プロセスを説明すると称した画像にもかかわらず、ドーナツにふりかけをかけたような画像や、サイケデリックなトッピングをしたピザのような画像に見えました。

AIが生成した画像の欠陥は科学者だけでなく、一般の人々も「人種的に多様なナチス兵士」や「単体では存在できないらしいバナナ」について話題にしています。『Atlantic』誌はこの問題を次のように要約しています。「生成AIは、クリエイターが何と言おうと、現実を正直に映すようには作られていない」。

ElsevierやTaylor & Francisのような出版社は、2024年7月現在、AIが生成した画像を使用することを全面的に禁止しています(AI画像生成に関する実際の研究のいくつかのケースを除く)。昔ながらの方法で画像を作成し、必要であれば評判の高い学術論文アートワーク作成サービスを利用してください。

学術論文にAIを著者として記載しない

2023年5月以降、International Committee of Medical Journal Editorsは、ChatGPTやその他のAIツールを科学論文の著者として記載することを固く禁じています。その理由は、オーサーシップの基本的な考え方のひとつである「科学論文の内容の正確さと完全性に責任を持つ」ということをAIツールは果たすことができないからです。このスタンスは、BMJからAsian Journal of Environment & Ecologyに至るまで、多くのジャーナルで採用されています。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

エディテージはカクタス・コミュニケーションズが運営するサービスブランドです。学術論文校正・校閲、学術翻訳、論文投稿支援、テープ起こし・ナレーションといった全方位的な出版支援ソリューションを提供しています。