持続可能な研究:カーボンフットプリントを削減する方法

Sustainable research How to reduce your carbon footprint

カーボンフットプリントとは、個人や組織の直接的または間接的な行動によって排出される、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの総量をCo2(二酸化炭素)に換算し、わかりやすくしたもののことです。研究分野によっては、材料、機器、インフラ、プロセスを通して発生するものだけでなく、学会や調査といった学術目的での旅行などによっても、カーボンフットプリントが大きくなる可能性があります。

この記事では、研究におけるどのような活動がカーボンフットプリントを増やすのか、いくつかの例を取り上げ、排出量を相殺するために採用できる方法についてご紹介します。

事実と数字

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという目標を設定しました。この目標は、地球温暖化を1.5℃に抑えるために極めて重要であり、これを達成するためには、各国が2030年までに排出量を半減させ、2050年までにほぼゼロにする必要があります。それに加えて、各国は人間の活動による排出を相殺するために、炭素除去戦略にも取り組む必要があります。

国連のClimate Action Factsウェブページによると、環境が原因で毎年1300万人が亡くなっており、2050年までにIPCCの目標を達成すれば、大気汚染の削減だけで世界全体で年間100万人の命を救うことができるといいます。それでは、科学研究は二酸化炭素排出にどのように関与しているのでしょうか?

プラスチックは、現代における重大な科学的発見のひとつです。私たちのスマートフォンから衣服に至るまで、あらゆるものにプラスチックが使われており、研究に使われる材料も例外ではありません。例えば、生物医学研究では膨大な量の使い捨てプラスチック廃棄物が発生します。2014年には、世界中の生物医学および農業研究機関から約550万トンの研究用プラスチック廃棄物が出たと推定されています。近年、多くの科学者が、非生分解性プラスチックに代わる持続可能な生分解性プラスチックの設計に関心を寄せています。ポリ乳酸で作られたシャーレは、世界中の研究室で使用されている使い捨てのポリスチレン製シャーレの代替品のひとつになる可能性があります。

同様に、宇宙や天文の研究もかなりのカーボンフットプリントを生み出しています。世界中の天文台のカーボンフットプリントは二酸化炭素換算で2,000万トン。これらのインフラは、年間120万トン相当の二酸化炭素換算のカーボンフットプリントを排出すると推定されており、平均的な人間が年間4トンを排出するのに対し、天文学者は年間37トンを排出することになります。

また、科学界では今、AI関連の研究が話題になっており、その技術は科学のさまざまな分野で驚異的な成果を上げ、実生活においても大きな変化をもたらしていますが、これには膨大な量の水を消費しています。Googleのデータセンターでは、水の消費量が2019年の34億1200万ガロンから2022年には55億6500万ガロンに増加しました。これにより、2019年から2023年にかけて水の消費量は60%増加しています。現在の調査によれば、世界全体でAI技術は2027年に42億〜66億立方メートルの水を消費する可能性があるといわれています。

こうした数字からもわかるように、科学者としては、より良い未来のためにカーボンフットプリントを削減するための行動を即座に起こさなければならない段階に来ています。

研究活動におけるカーボンフットプリントを削減するには?

科学研究の多くの分野では大量の二酸化炭素が発生しますが、世界中の研究者がその削減に役立つ解決策を考案しています。以下は、研究におけるカーボンフットプリントを最小限に抑えるための方法の一部です。

学術的な旅行や会議を再考する

対面での会議やミーティングが好まれる傾向にありますが、COVID-19の大流行は、バーチャル会議やハイブリッド会議がいかに私たちの助けになるかを示す良い例となりました。さらに、研究者は顧客や患者(臨床研究の場合)と直接会うことがよくありますが、そのようなミーティングをビデオ会議で行うことができれば、移動に伴う排出量を削減することができます。同様に、面接や助成金の審査もバーチャルで行うことができます。

組織は助成金を通じて学術旅行のスポンサーになることもよくあります。そのような助成金があれば、たとえ運営費が高くても、より環境に優しいアプローチを選択することができます。こうした考え方の変化は、カーボンフットプリントの大幅な削減につながります。

持続可能な機器の使用

機器によっては、調整することによりカーボンフットプリントの削減につながる場合があります。例えば、生物医学研究ラボの超低温冷凍庫は、通常の-80℃ではなく、-70℃で使用することができます。この10℃の変化により、冷凍庫の内容物の保存期間に影響を与えることなく、エネルギー使用量を約30%削減することができます。

持続可能な研究を行うもうひとつの方法は、機関内の複数のグループで機器を共有することです。これによって、個別の機器の製造コストや保守コスト、各グループの購入コストを抑えることができます。同様に、可能な限り機器を改修し、プラスチック器具やその他の実験用部品を再利用することも推奨されます。遠心分離管は、生物医学研究所で適切な洗浄と滅菌を行った後、特定の作業に再利用できるプラスチック器具の良い例です。研究者はまた、研究に対するより持続可能なアプローチを確実にするために、使い捨てプラスチック容器の代わりにガラスや金属の容器に切り替えることもできます。

さらにもうひとつ環境に優しいアプローチとして、生物医学や化学の研究ラボで使用される浄水システムによって浪費される膨大な量の水を再利用する方法があります。この水は研究室の清掃に使用できます。

エネルギー使用の見直し

すべての研究機関は、適切に機能するために大量の電力を必要とします。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用すれば、カーボンフットプリントを削減し、持続可能性を促進することができます。建物の屋上などの広いスペースを利用すれば、再生可能エネルギーで発電し、地域の送電網に供給することができます。それにより、電力の購入コストが通常より高い場合でも、可能な限り環境に優しいエネルギー源を選ぶことができます。

ラボスペースの持続可能な利用

ラボスペースは、持続可能な実践を念頭に置いて設計することができます。採光戦略、個別に操作可能なベンチライト、照明、コンピューター、その他の機器の稼働センサーを設置することで、研究室のカーボンフットプリントを大幅に削減することができます。

同様に、主任研究者のオフィススペースを研究室から分離することで、ラボスペースにのみ暖房、換気、空調システムを採用し、エネルギー使用量を削減することもできます。

また多くの研究機関では、グループ間で大きな研究スペースを共有しています。これにより、コラボレーションが促進され、エネルギー使用量の削減など、研究室のコンポーネントの持続可能な利用が可能になります。

適切な研究室設計は、カーボンフットプリントを大幅に削減することができます。この資料では、エネルギー消費を抑え、持続可能な行動規範に従い、研究の質を損なうことなく最小限のカーボンフットプリントで繁栄できる研究室の構築と管理に関する優れた洞察と事例を紹介しています。

排出量とオフセットの見直し

上記の実践には、科学者がカーボンフットプリントを削減するための積極的な対策が必要です。しかし、IPCCの目標を確実に達成するためには、研究者が採用しているこうした対策を定期的に徹底的にチェックする必要があります。科学者の助成金、雇用、昇進の申請には、持続可能な研究室での実践の見直しが含まれる可能性があります。正確なカーボンフットプリントの見積もりを毎回する必要はないかもしれませんが、大まかな推定は役に立ちます。このような見直しは、研究機関全体としての持続可能性の実践を評価するのに役立つだけでなく、研究者が自分の研究室にそのような実践を取り入れることを義務づけることにもなります。

したがって、研究環境におけるカーボンフットプリントの削減は、差し迫った課題でありますが、多くの戦略的介入によって達成可能なものです。研究機関は、出張などの見直し、機器使用の最適化、再生可能エネルギーの活用、持続可能な研究室設計の採用などにより、環境への影響を大幅に削減することができます。このような改革を実行するには、協調的な取り組みと革新的な思考が必要ですが、運営コストの削減から生態系への影響の軽減まで、潜在的なメリットは労力やコストを上回ります。科学界が持続可能な手法の理解と適用を進めることで、2050年までに排出量ゼロを達成することが可能となります。この持続可能に向けた取り組は、世界的な環境目標と一致するだけでなく、気候変動の影響を緩和するという点で、世界中の研究所の先進的な模範となるものです。


この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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