潜在的なバイアス:研究エコシステムに潜む危険

Implicit Bias the snake in the grass of the research ecosystem

多くの良心的な科学者は、自分の研究が客観的で公平なものであるよう努めていますが、自分の研究が偏っていると他者に指摘されると驚きます。なぜかといえば、ある種の認知バイアスは潜在的、つまり隠されているものだからです。

アメリカ心理学会によれば、「implicit bias(潜在的なバイアス/偏見)とは、implicit prejudiceまたはimplicit attitudeとも呼ばれる特定の社会集団に対する、意識的には気づいていない否定的な態度のこと」です。ここで注意しなければならないのは、「気づいていない」というキーワードです。偏見を持っている人は、自分が偏見を持っていることに気づいておらず、自分自身を完全に客観的で公平な立場とみなすことさえあります。

もちろん、研究者が明らかに偏見を持っている(特定の性別、セクシュアリティ、人種の人々を声高にかつ意識的に差別するなど)こともあります。例えば、研究責任者が「男性は数字に強い」という仮定のもと、男性の共著者に統計解析の作業を割り当てるかもしれません。

しかし、そのような偏見が無意識のものである場合、研究者自身がそのような偏見を抱いており、研究の実施、解釈、報告の仕方に影響を及ぼす可能性があることに気づいていないため、事態ははるかに深刻です。例えば、歴史的に臨床試験では男女の多様性が欠けており ( Bierer et al., 2022 )、男性の参加者が多くなる傾向にあります。このような偏りは、男女間の生物学的差異が特定の治療領域における治療や介入に対する反応に影響を及ぼす可能性があるため、すべての集団に一般化できない結果につながる可能性があります(Ravindran et al., 2020)。

潜在的なバイアスはどのようにして生まれるのか?

研究者は、他のすべての人間と同様に、以下のような潜在的なバイアスの影響を受けがちです。

  1. 文化的・社会的影響:研究者が育った、または現在住んでいる文化で広く普及している規範や固定概念は、研究者が持つバイアスの種類に影響を与える可能性があります。

    例:A博士(多数派の人種に属する)は、人種的に均質な町で育ちました。がん検診の行動に関する研究を行う際、A医師は人種差別を目撃したり経験したりしたことがほとんどないため、制度的な人種差別や人種的不公平が医療リソースへのアクセスにどのような影響を及ぼすかを見落としてしまいます。
  2. 個人的な経験:研究者は、特定のグループや個人とポジティブまたはネガティブな出会いをしたことがあり、その経験が偏った見解につながって研究に影響を与えることがあります。

    例:B博士は、宗教性が高く家父長制の強い社会に住んでおり、そこではトランスジェンダーや性別に多様性のある人々が中傷されています。運動と性的健康の関係を調べるためのアンケート調査を準備する際、B博士はシスジェンダー(性自認と生まれ持った性別が一致している人)でヘテロセクシュアル(異性に対し恋愛感情と性的な感情を抱く)の人に合わせた質問を作成します。
  3. 学歴と理論的知識:分野によっては、歴史的な偏見や思い込みが理論に組み込まれていることがあり、それが研究課題の設定や解釈に影響を与えることがあります。

    例:Gallegos-Riofríoら(2022)は、自然と精神的幸福に関連する研究のほとんどが西洋に偏っており、サンプルでは白人の参加者が優勢で、「自然」は単に緑や森林と定義されていることを発見しました。C博士は、アジアのある国の先住民の学生の不安レベルに対処するために、自然に基づいた介入を計画しました。介入の効果が限定的であることが示されると、C博士は、介入の理論的根拠自体に疑問があるかどうかを検討するのではなく、参加者に関連する要因のせいだと考えます。

研究における潜在的なバイアスへの取り組み

言うまでもなく、潜在的なバイアスに対抗するのは非常に難しいことです。なぜなら、研究者自身が自分が偏見を持っていることに気づいていないからです。それでも、私たちにできることはいくつかあります。

  1. さまざまな人々と時間を過ごす:仕事でもプライベートでも、さまざまな民族、人種、社会経済階層の人々を積極的に探し、関係を築いてみてください。例えば、違う地域のコミュニティーに参加したり、違う国や地域のウェビナーやバーチャルネットワーキングセッションに参加したりします。さまざまな国や文化を題材にした本(小説を含む)を読んだり、映画やウェブシリーズを見たりするのも良いでしょう。
  2. 多様な研究チームを作る:多様な視点を持つことで、研究プロジェクトに偏見が生じる可能性が低くなり、より斬新でインパクトのあるアイデアが生まれる可能性があります ( Yang et al., 2022 )。SpechtとCrowson (2022)は、多様性の高い科学作業グループは、より多様な情報源を引用し発表する傾向があることを発見しました。
  3. トレーニングの機会を利用する:潜在的なバイアスに取り組むために、多くのトレーニングプログラムが開発されています(Mavis et al., 2022)。所属機関がそのようなトレーニングを提供している場合、必須ではなくても申し込みましょう。

    専門家のアドバイス:米国放射線学会(American College of Radiology)米国腎臓学会(American Society of Nephrology)のような研究学会にも、会員が自らの偏見に取り組むためのリソースがあります。
  4. 自分が偏見を持っている可能性があることを自覚する:誰もが一定の世界観や視点を持っており、真に公平な人間などいません。研究中の仮定や決定には常に異議を唱えましょう。例えば、遡及的レビューで抗生物質を処方されるのは女性よりも男性の方が多いことが示されている場合、これは、女性が男性よりも細菌感染にかかりにくいということを必ずしも意味するわけではありません。男性の方が医療リソースにアクセスしやすい、あるいは医師が女性よりも男性の健康上の懸念をより深刻に受け止めているといったことが考えられます。

最後に

潜在的なバイアスは、医療と研究のエコシステムに浸透しており(Vela et al., 2022 )、人々の生活と生計に広範囲にわたる影響を与える可能性があります。潜在的なバイアスに対処するには、研究実践における多様性、公平性、包括性を促進するための意図的な取り組みが必要です。研究者は、文化的コンピテンシーのトレーニングに参加し、多様な研究チームと協力し、少数しか存在しないグループからの視点を積極的に求め、自らの偏見や思い込みを批判的に振り返ることができます。潜在的なバイアスに対処することは継続的な課題ですが、真に客観的で公平な科学にはとっては極めて重要です。


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この記事を書いた人

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